作文

たけしさんの夢

俺は自転車を漕いでいた。子供の頃から数百、数千回と通ったはずのその歩道には、まったりとした温和な陽光が射し、街路樹によるものか、それとも信号機や電柱のせいなのか、時折影が頭上をよぎった。 視界に映る景観からして、この季節が春の真ん中か秋の始…

志望の残り香

子供の頃から有楽町や銀座にはよく連れて行ってもらったが、銀座でも中央通り以東に行くことは稀だった。 小学校中学年の頃か、大好きだった『ポリスアカデミー』を観るために父親がシネパトスへ連れて行ってくれたことがあったが、歌舞伎座を見たのはその日…

追憶のハイウェイ第三京浜

あの日の朝。たしか8時ぐらいだった。 2階建てアミューズメント施設の屋上に機材車を停めて、さらに機材車の屋根に三脚を据えて、地上にいる出演者や着ぐるみが「たいそう」をしている様子を俯瞰撮りしていた。 カメラマンの足場は狭く、少し風が吹けば三…

君の声、僕の耳

会社からの帰り道、左の眼と右の眼がまるで斜視にでもなったかのようにチグハグした感じをおぼえ、さらに耳に聞こえる音も「池」を介してから聴覚に届くような気持ち悪さがあった。 そんなことが1月の初めから二週間もつづいた。 度数を変えたばかりのコン…

残雪な睦月の1DK

「この部屋、たいへん陽当たりがいいんですよ」 と言いながら、嬉々として年配の大家さんは案内してくれるのだけれど、部屋の裏手には一週間前に降った雪がどっさりと残っていた。 「雪・・・残ってますよね」と言ってみても、 「あんなに降ったの久しぶりで…

イボと修理代

秋から治療している痔の具合はなかなか改善されず、薬代もバカにならないしさすがに滅入る。 痔の薬以外にも、乾燥する気候によって加速した痒みを抑える薬、さらに禁煙外来で処方されたチャンピックスも相変わらず飲んでいる。 常用している薬が、ここのと…

別の感情 (3/3)

【サイヤクの宴】sideB-3 葬儀場からの帰り道、係の男性がワンボックスで町内会館まで僕たちを送ってくれた。この葬儀場のシステムとして、飼い主の「迎え」と「送り」は必ず含まれているのだという。 うちの両親と同じかそれよりも年配のこの男性は、ペット…

別の感情 (2/3)

【サイヤクの宴】sideB-3 「ごめんね」をさんざん繰り返しながら、やがてすぐにその言葉の対象を見失う。 生きて言葉を発せる俺と、焦げた沈黙のお前と(そもそもお前は言葉を知らないはずだし)、その対置にふと気づき、俺の言う「ごめんね」は空々しいギマ…

別の感情 (1/3)

【サイヤクの宴】sideB-3【出張帰りは一緒に寝ようね/フトンにうんちをもらしちゃイヤよ/hey hey heyフレンチブルドッグ】 焼け跡から、こんなネタ帳の切れ端が出てきた。曲作りのアイデアの一端だ。 タイトルは『ヘイ、フレンチブルドッグ』。ビートルズ…

完璧な家族、集合の合図

【サイヤクの宴】sideB-2 兄妹というものがいたことがないから、いた場合の不便や鬱屈を知らない。だから僕にとって兄妹というのは永遠のないものねだりだ。 7年前、僕が入院していた頃、面会に来た両親と病棟の中庭で昼飯を食べながら、つくづく自分の家族…

レイ・ユーレイ・レイ

【サイヤクの宴】sideB-1 あの家ではよく、金縛りにあった。 ヒカれるんじゃないか、とか、また頭がオカしくなったとおもわれるんじゃないか、と思ってあまり友達や誰かには言わなかったが、あの家で寝る時、かなりの頻度で金縛りにあった。さらに言ってしま…

大丈夫な朝

マンションを出て直進。すぐに高輪の商店街にぶつかる。 左折すれば高輪消防署。向かいには高輪警察。 もう一度左折。消防と警察の坂を下っていく。 第一京浜に出るその坂は、当然ザクロ坂と等しく、長い。 第一京浜に出て左は泉岳寺、右は品川だ。 品川を目…

ダサい覚醒

いよいよ生え際の部分からたしかにハゲが始まった気がしてならない。 徹夜明けなど一目リョーゼン、これはもうぜったいに「分け目」とも呼べないような奥行きと落ち武者感が生え際のあたりを支配している。 生え際に加えて徹夜明けでここのところヤバいのは…

遠い友達のための古い日記

年末だしせっかく日記をつけているんだから、なにか総括のようなことを書きたいとおもうがなにも浮かんでこない。 考えるのは向こう一週間ぐらいの諸々の予定で、その一週間は頭の中で連続しているけど一週間先は来年だ。今年についてのまとめようなどない。…

デフラグの楽屋

喫茶店の軒先にあるような、内側から蛍光灯が発光している角のとれた四角型の看板。よく「KEY COFFEE」とか書いてある類いのもの。ここのところ連続して、夢の中で「それ」を見る。 会社のソファで寝ている時、寝るつもりもなくおもわずパソコンの前で堕ちて…

一期一会オーバードーズ

深夜バスに乗るたび、これまで吐いて捨てるほど見てきた東京の景色が息吹をとりかえすのに毎度感激する。 こないだ京都に向かうため乗ったバスは、東京駅八重洲口を発車して新宿を経由したのだが、その途中でカーテンのすき間から見た自転車に乗った男の際立…

魂の追跡可能性

牛肉個体識別のウェブサイト。それはなぜかキチガイをおもわせる黄色が配色されている。ひよこ色などという生ぬるい黄色ではなく、どんな芸術の頂点にもおおよそキチガイがいるという不幸を確認するかのような「黄色」。 もしかしたらそれは、食肉となる牛が…

「おもったより長いね」

いま作っているおもちゃのVTRで、「1980」から「2009」までの西暦を早送りで一気に見せることになった。突貫工事のVTRなので潤沢な予算があるわけでもなく、エディターを呼べるわけでもない。撮影以降の全行程を自分でやらねばならないため、アニメー…

空気のような異物

このノートを始めてから意識的に携帯電話のカメラで写真を撮るようになった。SDカードに記録したものをパソコンのモニターで見るというのがやってみたら意外とおもしろかった。自分の携帯のカメラが市場にあるもののうちどれほどの機能のものなのかもわから…

デパートの屋上

平日昼間のデパートに行くというのはどれぐらいぶりだろう。 今日、撮影があって訪れたのだが、予想を遥かに上回る活気と人の量に驚かされた。 デパートの展示場で幼年の子供を対象にしたイベントをやっていたのだが、ものすごいにぎわいだった。 デパートと…