デフラグの楽屋


 喫茶店の軒先にあるような、内側から蛍光灯が発光している角のとれた四角型の看板。よく「KEY COFFEE」とか書いてある類いのもの。ここのところ連続して、夢の中で「それ」を見る。
 会社のソファで寝ている時、寝るつもりもなくおもわずパソコンの前で堕ちてしまった時に見る夢だ。
 夢の中にでてくる「それ」は、喫茶店の看板より背が高く(脚が長くてちょうど看板が僕の頭の位置ぐらい)遠くに山脈が見える日本のどこかの県道に置かれている。
 近づいていくと看板の文字は次第に判明していって、そこには筆文字で「グーニーズ様」と書かれている。そして横には矢印が記されている。
 どうやらその看板は僕たちの楽屋を示すものであるらしい。
 ここが日本のどこなのかはわからない。ただあまり都会でないこと、初めて来た土地であること、なのに僕たちは歓迎されていることをその看板から察することができる。
 矢印に従って看板のある県道らしきところから一本脇道へ、楽屋を探していくと二階建ての和風家屋がある。家屋の周りには花壇がいろいと置かれていて、どれも芽吹いているが花は咲いていない。誰かが水をあげたのか、どの芽も濡れている。
 いつもかならず、そこで目が覚める。


 ハードディスクをデフラグしながら、断片化されたファイルがやがて別の束をつくっていくのを見て、人の見る夢の内容もこんな風にできているのかとおもった。
 「夢映像化」までの処理の過程で何が起こっているのかはわからないが、頭のどこかに蓄積されたウゾームゾーの記憶やキ―ビジュアル・うしろめたさや希望などが、夢を見ている最中に大胆に編集されていき、あまりに突飛で変な、だけどつっこむほどの違和感を感じない(つっこむ間もない)物語がつむがれていく。


 看板がでてくる夢は、もう4夜連続ぐらいで見たのだけれどゆうべ看板は変質していた。
 「グーニーズ様」という文字が仕事でよく使う六本木のスタジオの名前に変わっており、明らかに六本木ではないその土地で矢印が書かれていたもんだから看板を用意した者に悪意を感じた。今日こそ楽屋に入れるかとおもったのに裏切られた。
 失意をおぼえてもう一度看板を見ると「小山家」と書かれている。
 文字は筆文字のままだが、看板自体の色が薄い水色や紫をほどこしたマダラになっている。まるで仏壇の前に並ぶ提灯のような色じゃないか。
 するとバンドのメンバーたちが僕を追い抜いてうれしそうに矢印の示す脇道に駆けこんでいく。ヨッシーが「いかないの?」といった風に一瞬無言で僕を見るがそのまま行ってしまう。
 みんなが駆けていくのを見ながら「ちげーよ!!そっち楽屋じゃねーよ!!もう楽屋はねーよ!!」と怒鳴るが誰も振り返らない。
 メンバーを目で送った後、もう一度看板を見上げるとそこには何もなかった。